「望乃さん!」

 どうするべきなのかもわからず、一人裏口の前で立っていると柊さんが来てくれた。
 うまく働かない頭で、柊さんだけでも無事でよかったと思う。
 思ってから、すぐに否定した。

 良くない、杏くんは連れ去られちゃったじゃない!
 離れていた柊さんじゃなくて、同じ教室にいた杏くんを。

 後悔が頭の中だけじゃなく全身をかけめぐっているみたい。
 可能性を見落としてなければ、杏くんから目を離さなければ。
 そんな思いばかりで体もまともに動かない。

「望乃さん? どうしたんだ? 杏は?」
「っ!」

 近くに来た柊さんに顔をのぞき込まれ、泣きそうになる。
 杏くんのこと、言わなきゃ。

「ご、ごめ、なさ……」
「望乃さん?」

 杏くんを守れなかった。
 柊さんの大事な弟を守れなかった。
 それを伝えるのが怖い。
 でも、言わないわけにはいかないから消え入りそうな声で伝えた。

「杏くんが、さらわれてしまいました……」
「っ!?」