一瞬にして走った緊張感に、結希もまた表情を引き締めて朝臣を見上げた。

「ゆん、そこ開けて!」

 結希が言われるがまますぐそばのタンスの引き出しを開けると、晴斗を鷲掴んだ朝臣は中身をよけるでもなくそこに押し込む。もがもががふがふ言っているのは、閉めた引き出しを外から叩いて黙らせる。
 そこへ静かな足音と気配が近づいて、二人は視線を向けた。

「朝臣」
「はい」

 返事を受け、すっと襖が開く。現れたのは着物を綺麗に着付け艶やかな黒髪を結い上げた美しい女性、朝臣の母親が正座の結希に微笑みかけ、朝臣に向き直る。

暁裄(さとゆき)が呼んでいましたよ。急ぎ話したいことがあると」
「わかりました、すぐ行きます」

 兄が呼んでいる。用件はそれだけだったようで、母親の気配が遠のいていくのを確かめた後、晴斗はタンスの中から解放された。服の間から這いずり出てきたものの、短い時間とはいえ息を殺すのはなかなかの苦行だった様子で、ぷくりと膨らんだ頬が不機嫌を物語っていた。

 桐生家は、古くから妖を滅してきた一族――。

 妖の一種といえる小鬼を家に引き入れたなどと、知られる訳にはいかないのだ。……兄の話とやらも、それについてでなければいいのだが。