桐生にしてみれば小鬼を名付けたことも聞いたばかりだというのに、晴斗が現れてからの変化はそこそこ忙しないらしい。
 その晴斗はといえば、ぴょこんと結希の腕から抜け出したと思うと、物珍しそうに部屋を走り回っている。

「でもなんか照れるっていうか変な感じするよね、クラスの男子を名前呼びなんて」
「そりゃあ、俺ら年頃だし?」
「あはっ。御崎くんもうっすら赤くなってたような気がするなー。慣れないうちは気まずいかも」

 言葉通り照れ混じりに笑う結希に、桐生の胸に妹が巣立つような少しばかりの寂しさが湧き上がって苦笑する。何もこれまで二人きりの友達関係だったわけではないというのに不思議なものだ。

「あ。あおちゃんのことはハルがなんて呼ぶことになってもあおちゃんって呼ぶからね!」
「そんな宣言はいらん」

 ぺしり、桐生が結希の額を軽くはたく。
 幼い頃からの呼び名だった。朝臣という名前を『あお』などと略すのは彼女くらいのもので、それも今では気恥ずかしく感じるものの、かといって変わらないことが心地良く二人して笑い合う。

 と、桐生――朝臣が、弾かれたように腰を浮かせる。