どちらも譲らず、我慢比べの様相を呈してきた。
 結希は、まださほど親しい訳ではないとはいえこれまで見たことのない御崎の様子に、思わず込み上げた笑いを堪え、小鬼の頬を指先でつつく。

「ね、君に名前つけてもいいかな?」
「なんで」
「そこから動いてくれなさそうだし、だったら仲良くするには名前がないと不便でしょう」

 頭上で交わされる会話、それも居座ることを肯定するような発言に御崎は不満を主張するようなため息を吐くが、結希は聞こえなかったふりをして、正面の人間とは異なる瞳を見つめた。
 青い、陽の光を受けて透き通るような青い瞳。気配は確かに鬼のようではあるものの、同じものとして一括りにしてしまうにはあまりに美しいと思えた。

「晴斗。はると、ってどうかな。晴れた空、みたいな感じ」

 パッと空を見上げた小鬼――晴斗は、瞳いっぱいに光を浴びて笑顔を浮かべた。
 声を上げ顔を輝かせて飛び上がる。その姿は鬼というよりも童話に出てくる妖精か何かのように、ついつられて笑顔になるほどに明るく楽しげ。

「気に入ったぞ、お前ッ」

 晴斗はそれほどまでに居心地がいいのか御崎の頭にくっついて動く気配がなかったが、上機嫌にくるり、宙を回転してみせるのだった。