「ただ忘れるな。俺が妻と認めるのも、唯一愛するのもお前だけだ、美鶴」
「弧月様……」

 まるで沸き上がる嫉妬心を吹き飛ばすかのように、弧月の言葉が温かな風となって美鶴の心を吹く。
 その風は強い抱擁と共に、嫉妬の代わりに胸に(とも)った穏やかな火を優しく撫でた。

(そうね……弧月様は確かに私を愛してくれている。それを疑うような感情を抱くのは弧月様に失礼だわ)

 美鶴は応えるように両手を弧月の背に回す。
 見ず知らずの姫に抱きそうになった妬みを吹き飛ばし、燃え盛りそうだった炎を慈愛の火へと変えた。

(私は弧月様を愛している。弧月様も私を愛してくれている。そして何よりその結晶とも言える二人の子がいる。……私はあり得ない程幸せ者なのだわ)

 自身の幸福を改めて実感し、騒めいていた心は穏やかに凪いでいく。
 今なら落ち着いて話を聞けそうだ。

「……聞かせてくださいまし。そのご様子では姫の入内は弧月様の御意思ではないのでしょう?」
「当たり前だ」

 不機嫌そうに即答した弧月からは不本意だという意思がありありと伝わってくる。
 拗ねている様にも見える弧月に、美鶴は少し笑ってしまいそうになった。

(お可愛らしいと思ってしまうのは、失礼かしら)

 おそらく失礼だろう。
 そう結論付けた美鶴は口には出さず心に留めた。
 代わりに話を促す。