妖帝と結ぶは最愛の契り

 助走をつけられれば高欄も飛び越えてしまうかもしれない。
 美鶴は思わず腹を守る様に腕を回し、身構えた。

「美鶴様⁉」
「このっ、させるものか!」

 野犬の意識が逸れたからか、声に覇気が戻った双子がまた手のひらに青い炎を出す。
 二人揃って投げた炎は、今にも美鶴に飛び掛かりそうだった野犬に当たった。

 ぎゃんっ!

 悲鳴のような鳴き声を上げた野犬はそのまま止まってしまう。
 恐ろし気な形相だった顔も穏やかになり、可愛らしさすら出てきた。
 炎に包まれているのに熱くはないのだろうか? と不思議に思っているうちに灯と香が美鶴のいる縁側へと上って来る。

「なんて無茶をなさるのですか⁉」
「何故お一人なのですか⁉ 小夜姉さまは⁉」
「あ、それは……」

 小夜との約束を破った状態なので口ごもるが、ちゃんと説明しなければ二人は納得しないだろう。
 今の出来事を予知したこと、予知した未来を変えるため弧月に伝えて欲しいと小夜に頼んだため一人であることを伝えた。

「供もつけず、小夜との約束も破って来てしまったことは申し訳なく思うわ。でも、あなた達が怪我をしたらと思うといてもたってもいられなくて」
「美鶴様……」
「私たち、美鶴様に助けられたのですね……」

 毒気を抜かれた様に二人が呟くと、焦った声が美鶴を呼んだ。

「美鶴様⁉ 何故部屋を出ていかれたのですか⁉ お約束したではありませんか!」

 見ると、焦りを隠しもしない小夜が近付いて来るところだった。
 いつも落ち着いた様子の小夜が焦り憤っている様子に、本気で心配させてしまったのだと申し訳なくなる。
 どんなお叱りでも受けようと、唇を引き結んだ。

 だが、更に叱る言葉を口にしようとする小夜の前に二対の狐耳が立ち塞がった。