妖帝と結ぶは最愛の契り

 今は大事な時期だからあまり動くなとも言われていたが、灯と香が心配だ。
 とはいえ腹の子も大事なので本当に様子見をするだけの予定だった。

 だが、吠え声を頼りに玄輝門(げんきもん)が見える方へと足を運ぶと。

 がうっがうっ!

 正に先程視たばかりの光景が広がっていた。
 怯えて震える妖狐の双子。
 その二人を追い詰め威嚇する野犬。
 現状を変えようと手のひらに青い炎を出現させる灯と香。

 がうっ!

 吠えられ、炎を消してしまうところまで見た美鶴は考えるより先に動いてしまう。

「っ……このっ」

 持っていた扇をぱちんと閉じ、野犬めがけて投げつける。
 ばしっと軽い音を立てて当たった扇は地面に落ち、野犬の意識がこちらに向く。

「美鶴様⁉」
「何故ここに⁉」

 双子も美鶴の存在に気付き驚きの声を上げるが、美鶴はそれに応える余裕は無かった。
 こちらに意識を向けた野犬が唸りながら近付いて来る。
 縁側は地面より高さもあるし高欄もあるので飛び掛かられても届かないとは思うが、威嚇する野犬は相当気が立っているのか形相だけでも恐ろしい。

 がうっ!

「っ!」

 ひと吠えした野犬は美鶴の方へと走ってくる。飛び掛かってくる気でいるようだ。