妖帝と結ぶは最愛の契り

(あっ……これは)

 先に書かれていた文字が揺らいで見え、慣れた感覚にまた筆を置く。
 予知だ。

 白昼夢の中視えたのは、おそらくこの七殿五舎のどこか。
 どこからか入り込んだのか、野犬の凶暴な吠え声が聞こえてくる。
 その野犬が吠えている先には妖狐の双子。灯と香だ。
 野犬に追い詰められたのか、大きな木を背後に手を取り合い震えている。
 それでもどうにか現状を打開しようとしたのだろう。
 二人は青く揺らめく炎を手のひらの上に出し、涙目で野犬を睨む。
 だが、逆に野犬の方も何かの危機を感じ取ったのだろう。

 がうっ!

 ひと際大きく吠え、その大きさに驚いた双子はびくりと震え炎も消えてしまう。
 すると野犬は双子に飛び掛かり、どちらかに咬みついた。

「っ! 灯! 香!」
「っ……美鶴様?」

 思わず声を上げながら覚醒した美鶴。
 声をかけてきたのはいつの間にか戻って来ていた小夜だ。

「大丈夫ですか? 見たところ予知をされていた様でしたのでお声掛けしませんでしたが……」
「小夜……灯と香はどこ?」

 今視たばかりの光景が頭から離れない。
 咬みつかれたところで終わったのだから死んでしまうことはないだろう。
 だが怪我はしただろうし、その怪我が原因で(わずら)ってしまうかもしれない。