妖帝と結ぶは最愛の契り

「ふむ、滑りが甘いようだな?」
「っ! は、話します!」

 また舐められては敵わないと、美鶴は観念して声を上げた。

「その……さ、触ってみたいなと思いまして……」
「……」

 仕方なく告げたのだが、黙り込む弧月に不安になる。
 言いづらいことなので最後は消え入りそうなほど小さな声になってしまったのが良くなかっただろうか?
 だがこの近さだ。聞こえないということはないだろう。

「あの……」
「触りたいとは……狐の耳と尾のことか?」
「は、はい」

 普段と同じ口調で聞き返され、安堵した美鶴は弧月を見上げた。
 ただ、見えた表情は困り笑顔で。

「すまぬが、成人した妖は人前で本来の姿を晒すことはないのだ」
「あ、無理にとは――」
「そうだな……そのうち、二人だけのときにでも触らせてやろう」

 困らせるつもりはないのだと断りの言葉を口にしようとした美鶴だったが、弧月は遮り了承してくれた。

「あ、ありがとうございます」

 望みを叶えてくれるという弧月に嬉しくも申し訳ない心地になる。
 少々、自分は我が儘になってきているのではないだろうか。
 今夜はやることがあるからと清涼殿へ帰っていった弧月を見送りながら、美鶴は反省していた。