美鶴の懐妊が分かってからというもの、弧月は毎晩のように宣耀殿へと通ってくるようになった。
 今まで通り朝には時雨を使いにして花を届けてくれているというのに、一日に一度は顔を見なければならぬとでも言うように足しげく通う。
 美鶴の悪阻が酷くないときは夕餉を共にすることもあったが、何故か対面ではなく隣に膳を置き寄り添うように食べた。

「美鶴はそれで足りるのか? 少ないし、ほとんど山菜ではないか」
「悪阻の為か、山菜に酢をつけたものが一番食が進むのです」

 無理に食べても吐いてしまうため、少しでも栄養を取るために確実に食べられるものを選んでいた。

「柑子も食べやすいのか?」
「はい、酸味のあるものの方が食べやすいようなので」

 膳の上に共に乗っていた柑子を見て聞いた弧月は、美鶴が手に取るよりも先に柑子を取る。

「え? あの、弧月様?」
「どれ、俺がむいてやろう」
「え? あ、あのっ。自分で出来ますからっ」

 食べるのは自分なのに弧月の手を汚させるわけにはいかない。
 慌てて取り戻そうとするが、早くもむき終わってしまった弧月はひと房つまんでそれを美鶴の口元へ運んだ。

「ほら、口を開けろ美鶴」
「こ、弧月様? 私、自分で食べられますよ?」

 弧月に手ずから食べさせてもらうなど、畏れ多いし単純に恥ずかしい。

「よい、俺がそなたにこうしてやりたいのだ」

 何とか断ろうとするが、ふわりと柔らかく甘い微笑みに押し負けてしまう。