妖帝と結ぶは最愛の契り

 どちらにせよあと僅かの命なのだと、それを思うと少し冷静になれた。
 この男が自分をどうするつもりなのかは分からないが、大したことは出来やしない。

(だって、きっともうすぐ……)

「かっ火事だー!」

 どこからともなく叫び声が聞こえた。

「なっ⁉ 火事だって⁉」

 瞬時に男が叫び、周囲も慌ただしく動き出す。
 火元は近いようだったが、こちらは風上なのか焦げた臭いなどはしなかった。

「ちっ! 早く来い!」
「あっ!」

 火事という緊急事態にも関わらず、手を離そうとしない男。
 仕方なく引かれるままに足を進めながら、美鶴はどこか納得していた。

(火事なのに何故火に巻き込まれるまで家に帰らなかったのかと思っていたけれど、こういう状況だったからなのね)

 予知で見た自分は明らかに門の近くの建物付近にいた。
 木造平屋が立ち並ぶ都は火の回りが早い。そこに住んでいる者以外は早々に避難するのが常だった。
 だというのに小屋が倒壊するほどの火に巻き込まれるまでこの辺りにいたのは、この男に捕まっていたからなのだろう。

(あ、だとしたら……)

 それならば、この男も危ないのではないだろうか?
 予知では自分以外は見えなかったが、この男に連れて行かれた先での出来事に違いない。
 善人とは思えないが、死んで当然と思えるほどこの男のことは知らないため、巻き込むのは忍びないとも思う。