帝が住まう内裏から真っ直ぐ南に伸びている大路(おおじ)。その先に都を囲う塀から出るための大門(だいもん)がある。

 力ある妖の公家(くげ)が住まう地域は自然と治安も良くなるが、力なき人間の住まう門付近には都の外を根城にする荒くれ者も時折現れた。
 同じ都として囲われているというのに随分と違うなと、美鶴は大門を見上げながら思う。

 数人がかりでなければ開けられないような大きな門は、屋根部分を見れば装飾がふんだんに施されているのが分かる。
 意匠の良し悪しなど分からなくとも、緻密(ちみつ)な彫刻はかなりの技術が必要なことくらいは察せられた。

 それほどに力を入れて作り上げた門だというのに、主に利用しているのは平民である人間だけだ。
 公家の妖達は父が仕える中級貴族の様な一部の者を除き、滅多に外へ出ることはない。
 出ることがあるとすれば戦にでも赴くときだけ。
 その戦も久しくない今日(こんにち)、やはり公家の者が利用することはないのだろう。

 目的の門の近くについた美鶴は、運命のときまですることもないので結局言いつけられた反物を探していた。
 このような治安の悪い場所で綺麗な反物など落ちていたら、すぐに盗られてしまうに決まっている。
 見つかるわけがないと思いながらも、地面に目を向けて付近をうろうろと歩いていた。

 このような治安の悪い場所を地面を見ながらひたすらうろついている娘。
 傍から見ていても怪しかったのだろう、訝し気な視線をひしひしと感じていた。