「大丈夫か美鶴、俺が抱こうか?」

 牛車から下りるのを手伝ってくれた弧月が美鶴の抱くおくるみを受け取ろうと手を伸ばす。
 だが、美鶴は柔らかく微笑みそれを断った。

「いえ、ちゃんと私から見せたいので」
「そうか」

 美鶴の思いを汲み取り、弧月は歩きやすいように支えるに留めた。
 そのまま二人で目の前の小家――大家と言った方が良さそうな平民の家へと入る。

(まさか、またここに来ることになるとは思わなかったわ)

 土間に入りながら、一年と少し前までいた実家を見回す。
 そうして思い出すのはやはりお世辞にも幸せとは言えない出来事ばかりで、少し物悲しい気分になった。

「美鶴……?」

 だが、今の自分を幸せにしてくれる愛しい夫の呼びかけに悲しい思いがすくい上げられる。
 笑みを向けると、同じく愛情に溢れた笑みが返って来て、嬉しくも少々気恥ずかしくなった。

「主上、美鶴様。お待ちしておりました」

 表室にて見知らぬ女性が膝を付き頭を下げていた。
 平民の、人間の女性。
 美鶴は初めて会うが、この者は自分が弧月に頼み手配してもらった女性のはずだ。