収穫祭は、五年ほど前までは毎年行われていたものらしい。オレールも十八歳で領を出る前までは、参加していた。

「基本は、豊作を感謝し、リシュアン神へ供物をささげるんだ。だから神殿関係者はこの日は忙しい。街では、出店やパレードが行われる」
「なるほど? では私は神殿にいれば、いいのでしょうか」
「そうだな。でもできれば街の様子も見てほしい。迎えに行くから、一緒に回ろう」
「はい」

 当初反対していたとは思えないくらい、オレールも祭りを楽しみにしているようだ。

「ジビエのお店も出店したいですね。丼くらいならその場ですぐ作れますし」
「そうだな。今年の豊作は、イノシシを捕らえたことにも起因する。ぜひ出店してほしいものだ」
「明日、様子を見に行きますから、伝えてみますね」
「……ありがとう」

 突然、改まってそんな風に言われて、ブランシュは驚いてしまう。

「どうしたんですか」
「収穫祭をしようと望まれるほど、領民が元気になったかと思うとうれしくてな」

 オレールのまなざしが熱を帯びてくる。その瞳に映る自分を意識した途端、ドキドキして、息が止まりそうになる。

「オレール様が、頑張ってくれたからです」
「俺だけの力じゃない」
「じゃあみんなの力ですね」

 みんなが、領地を立て直そうと思ったから、できたことだ。

「ああ」

 オレールは立ち上がり、ブランシュの手を持ち上げる。そして手の甲にキスを落とした。

「その中心に君がいる」
「……私じゃありませんよ。オレール様です」
「いいや。君がいてくれなければ、私では、民をひとつにはできなかった」
「私が頑張ろうって思ったのは、貴方が不器用で、それでも民のことを思う優しい人だったからですもの」
「……ありがとう、ブランシュ」

 温かい言葉だ。頑張ってよかったと、ブランシュは心の底から思う。

「私、収穫祭の準備も頑張りますね」
「ああ。俺もできる限り手伝おう」

 オレール様の眼差しが優しくて、ブランシュは満ち足りた気持ちになる。
 ちょっとしたタイミングで触れる手に、もっとと願う気持ちが湧き上がってくる。

(貴方と一緒にいたい。これから先も、ずっと)

 喪が明けたら、本当の夫婦になる。ブランシュはそれを、今はとても楽しみにしていた。