「ダヤン領は自然が多い。どこに行くにもこのくらいしっかりした靴の方が役に立つ」
「はい。ありがとうございます」

 オレールは一瞬視線を落としたが、すぐに顔を上げて、ブランシュを愛おしそうに見つめた。

「……俺は、君にふさわしいのか今も自信がない。だけど、この靴がすり減ってボロボロになるくらい、君に一緒に歩んでほしいと思っている。最初俺は、君が望むなら婚約は撤回してもいいと思っていた。だが今は、喪が明けたら、正式な妻になってほしいと思っている。ずっと、俺と一緒にこのダヤン領を盛り上げていってほしいんだ」

 それは、ブランシュがずっと聞きたかった言葉だ。領主となることも、ブランシュを娶ることも、彼の望みなのだとようやく実感できる。

「私、これからも隣にいていいんですか?」
「ああ。ずっと隣で笑っていてほしい」
「……はい!」

 うれしくて、自然に笑顔になってしまう。
 オレールもはにかんだ笑顔で、見ているだけで胸がこそばゆい。

「オレール様、私、これでお散歩がしたいです」
「ああ。じゃあこれから出かけよう」
「はい!」

 店主に暇を告げ、馬車はレジスに任せ、ふたりは街を歩く。

「これって、デートでいいですよね?」

 見上げながらそう聞けば、オレールはゆっくりとほほ笑んだ。

「……ああ。ブランシュ、俺は、君のことが大好きだ」
「私もです」

 その日は足がくたくたになるまでふたりで歩き続けた。
 ブランシュにとっては、人生初めてのデートの思い出である。