聖女ブランシュの生活は、お祈りから始まる。

「リシュアン様、おはようございます」
《ブランシュ、おはよう》

 小神殿の神官たちは、毎朝掃除に訪れるブランシュに慣れ、恐縮することもなく迎え入れるようになった。
 毎日、神と親し気に言葉を交わしながら、嬉々として掃除をする聖女を見て、感嘆の息を漏らす。
「この方は、まぎれもなく聖女様だ」と。

 終わった後は、オレールと共に朝食をとる。そして昼は商品開発を兼ね、料理人たちと共にジビエ料理を作る。
 夜はオレールと話し合いだ。オレールは自分からなにかを提案することはあまりないが、ブランシュの提案を実現するための案はよく出してくれた。

「では……」
「ああ。革職人を数名、招致することができた。イノシシの皮というところに興味を持ってくれてな。ここの職人に技術を仕込んでもらうことになっている」
「ありがとうございます!」

 オレールは、騎士団の業務でいろいろな土地を訪れており、各地の特産や事情には詳しかった。それはブランシュの苦手分野でもあったので、とても助かっている。
 そうやって商品開発に努め、領主主導で始めたジビエ料理店は、ブランシュがこの土地に来てから半年後にようやく開店した。

《しかし、金もないのによくこれだけのことをやったな》

 ルネが感心したようにつぶやく。

「実は少し借金しているの。それでも、これで結果が出せれば取り戻すことができるから」
《オレールにしちゃ冒険じゃないか》
「だからこそ、失敗なんてさせられないわ」

 今日の開店を成功させるために、ブランシュは近隣の領にチラシを配布した。前世では古典的な手法だが、これまでチラシを配るという行為自体は行われたことがないのだという。

 だが、他に大きな特産のない、交通の要所にもなりえないダヤン領で人を集めるには、とにかく奇抜な発想で注目してもらうしかない。