マリーズは悩んでいた。
 ブランシュという聖女を信じていいのか悪いのか。
 先ほど、礼拝室で領民に向かって語った時には、マリーズも彼女をあがめそうになっていた。

「……やっぱり、本物の聖女様なのかしら」

 そんな風に悩んでいたマリーズに、ブランシュはとんでもないことを言い出した。

「変装……ですか?」

 マリーズは目が点になる。貴族の女性から、町娘に変装したいと言われたのはこれが初めてだ。

「ブランシュ様。一体なにをなさる気なのですか?」
「街を見たいの。聖女としてじゃなく、普通の目線で。ドレスを着ていたら、そのままの街の姿なんて見られないじゃない」
「危ないですよ」
「平民の女性が街を歩くことはなにも危なくないわ。あなたもお友達としてついてきてくれるでしょう?」
「でも、でも……」
「お願いよ、マリーズ」

 困り切ったマリーズは、オレールにお伺いを立てることにした。
 彼は一瞬眉を寄せたものの、護衛をひとりつけることで、了承した。
 その結果を伝えに戻ると、今度はブランシュが難色を示す。

「護衛ねぇ。あまりかしこまりたくないのよね」
「駄目ですよ。オレール様の命令は絶対です」

 ブランシュは困りつつも、マリーズの忠誠心については気に入っていた。

「ではこうしましょう。護衛の方は少し離れてついてきてもらうの。決まりね、じゃあ、マリーズ、申し訳ないけれど、貴方の服を一着貸してもらえないかしら」

 平民服を着て、頭に頭巾をかぶれば、とても神殿の聖女様には見えない。
 ブランシュは見た目の変わった自分の姿に満足し、マリーズの手を引く。

「さて、行くわよ。マリーズ、今日は私のこと、ブランって呼んでね」
「ひえ……。恐れ多い」
「今日はお友達よ。いいわね」
「はいぃ」
「みゃ」

 ブランシュはマリーズの腕にしがみつき、街へと出る。ルネはその後をついていった。