王都を出てから五日が経つ。
 王都は民家が多く、街道も綺麗に整備されていたが、一日も経つと馬車がガタガタ揺れるような、荒い舗装の道へと変わった。周囲に見える景色は緑が多くなり、あまりに景色が変わらないので、どのくらい進んだのかもわからないくらいだ。

 オレールたちは、ブランシュを気遣ってか、夕方には宿をとってくれた。護衛の数人は野宿をしているのに、ブランシュには一人部屋を取ってくれていて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 休憩のときに、レジスに言ってみたら、気にするなと笑ってくれた。

「神託による結婚ですから、神殿から支度金が出されています。本来の結婚であれば、男性側が出さなければならないものですので、こちらとしては助かっているんですよ」

 あけすけに事情を説明され、ブランシュは少しほっとした。

「よかった」
《神殿長も粋なことをするもんだね》

 ルネがつぶやき、レジスに鳴いて見せると、レジスは目を細めてルネの頭を撫でた。

「猫ちゃん、かわいいですよねぇ」
「さあ。神殿にいつの間にか迷い込んできた猫なんです。懐いてくれたから、私が世話をすることにしたんです」
「そうなのですが、さすが、お優しいですね。ねっ、オレール様!」

 テーブルの向かいに座るオレールに、レジスが同意を求める。

「あ、ああ。そうだな」

 どうやらオレールは、あまりお話好きではないらしい。ブランシュに対しても、聖女へ向けた礼儀は尽くしてくれるけれど、とても結婚相手に対する態度とは思えないのだ。

(まあ、仕方ないか。話してくれるだけマシなのかしら)

 半ば無理やり押し付けられた婚約者だ。嫌われていても仕方ない。でも歩み寄りくらいは見せてくれても……と思ってしまう。

「……ブランシュ殿」
「はい?」
「もうじき、ダヤン領に入るが、領土を見ても、どうか驚かないでほしい」
「それは、どういう……」