気の利く従者に礼を言うと、彼は気をよくしたように笑った。

「すべて俺に任せてくださいよぉ!」
「そこまでは言っていない」

 レジスの両親がオレールの父に仕えていたこともあって、彼とは幼馴染のような間柄だ。
 年は二歳上の二十六歳で、兄よりも一つ下だ。タイプの違う兄弟の調停役のようなことも務めてくれていた。

「なあ、レジスは兄上の失踪の理由って知らないのか? ずっと一緒にいたんだろ?」

 兄の話になると、基本的に笑顔のレジスの顔が少し曇る。それもこの数週間で分かったことだ。

「……ダミアン様は、ないものねだりですし、自分を過信しすぎなんです。自領で満たされなかったものが、外にならあるとでも思っていたのでしょう。それでも、外の世界を知れば、満足して二年くらいで帰ってくると思っていました。こなかったのですから、オレール様が領主になられるので正解なんです」

 そっけない言い方が、胸に引っかかる。

「だが、兄上の方が領民に好かれていただろう?」
「あの方は人当たりがいいから。でも、貴方にはあなたの良さがあります。俺は、オレール様の側近になれてうれしいんですよ」

 ぽんと肩を叩いて、レジスは微笑んだ。
 彼が自分に信頼を寄せてくれることが、オレールには信じられない。二番目としてなにも期待されずに生きてきたオレールは、自己肯定感が低い。第三騎士団副団長まで務めたのに、事情を離せばすぐに辞められた。引き留められても困るが、あっさり了承されるのも、自分が必要のない人間のようでむなしかった。

「俺には、なにができるんだろう」

 手のひらを、通ってはすり抜けていくなにか。自分が掴みたいものがなんなのかさえ、オレールにはわからない。

「俺が彼女を幸せにできるのだろうか」

 オレールのひとりごとは、煙のように巻きあがり空気に溶けていった。