時は流れ、春がやって来る。
 ブランシュは、絹のドレスに身を包み、バージンロードを歩いていた。
 中央神殿から筆頭聖女のドロテが祝福に訪れていることが、この結婚がリシュアン神の神託によるものだと証明している。
 しかし、そんなことも忘れてしまいそうなくらい、新郎新婦はふたりの世界に入り切っており、見ているだけで恥ずかしくなるという状態に陥っていた。

「愛している、ブランシュ。君を一生大切にする」

 ブランシュがオレールの元にたどり着いた途端、彼は彼女の両手を握り、勝手に誓いを述べるのだから、神官たちは困り切ってしまう。

「オレール様、先に私の話を聞いてください」

神官が言うと、オレールはようやく我に返った。

「ああ悪い。待ち焦がれていたものだから」

 ふたり、正面を向いて神官の文言を聞いている間も、繋がれた手は離されることはない。

「あなたは妻ブランシュを、生涯愛し、辞める時も健やかなるときも、ともに過ごすことを誓いますか」
「誓います」

 近いとともに、握られた手に力がこもる。ブランシュは常に感じられる彼の愛情がうれしかった。 

「ブランシュ・アルベール。あなたは夫オレールを、生涯愛し、辞める時も健やかなるときも、ともに過ごすことを誓いますか」
「誓います。一生、ともにいます」

 十四歳の時、聖女の力を見出されたブランシュは、強制的に家族と引き離された。
 最初は心配してくれた家族も、じきにブランシュのいない生活に慣れていった。
 それがずっと寂しくて、自分にはもうあたたかな家庭など手に入らないのだと思っていた。

「一生、あなたを愛します」

 だから、オレールと出会えたことが、とてもうれしい。
 すべてを見通すリシュアンには、ブランシュがこんな風にオレールに恋をすることも分かっていたのだろうか。

「俺もだ」

 促される前に、かわされる誓いのキス。
 神官はすでに、勝手にやってくれというような顔になっている。

「ブランシュ」

 そこへ、ドロテがやって来た。

「やはり神託は間違っていないのだね。お前は愛する人を見つけたのだ」
「ドロテ様」
「降嫁したとはいえ、お前はまだ神の声を聞くことができるのだろう。与えられた居場所で、自分らしく生きなさい。神がなにを思ってお前をここに遣わしたのか、今の時点ではわからないが、その生涯を終えるころには、きっと誰もが神託の正しさを知るだろう」

 筆頭聖女らしい重みのある言葉に、ブランシュは心から頷いた。

《リシュアンが、辺境伯を選んだのはたまたまじゃないのかなぁ》

 ルネらしき適当な発言が聞こえるが、それは聞かなかったことにしよう。

「はい。私、これからもここで頑張ります」

 聖女として、領主夫人として。まだまだやることはたくさんある。
 これは終わりではなく、始まりなのだ。

【Fin.】