そして時は過ぎ、屋敷や神殿の修復も進んでいく。
 被害が大きかったため、費用の捻出には苦労したが、街の大工たちや住民たちがボランティアで手伝ってくれることもあり、順調に進んだ。

「いい木材がありますよ。うちの領土」

 木材が大量に必要になったことにより、一時は管理を放棄していた山に人が入るようになった。これにより、山の整備も進められ、林業の復活の兆しが見えてきた。

 整備されたことによって、逆にイノシシの出没が減るなどの弊害は合ったものの、全体としてはプラスであったと言える。
 その間に、結婚式の準備も行われた。
 オレールはブランシュに似合うドレスを作るために、絹織物の盛んな北のペルショー辺境伯の元まで言ったのだ。

「神託で結婚とは大変と思っておりましたが、どうやら仲睦まじい様子で」

 オレールよりも五歳ほど年上の辺境伯は、そう言ってオレールをからかうのだった。

 一方、ブランシュは、相変わらずジビエの店の改良に余念がない。

「このコショウを使ってみて」
「ブランシュ様、これは?」
「中央で有名になっているコショウらしいの」

 ジビエは供給量が一定ではないため、偏ることも多い。今はイノシシだけではなく、クマ肉なども提供しているが、暇な時期はこうして、更なる味付けを求めて香辛料を開拓しているのだ。
 もちろん自分の足でいろいろな地域を回る。オレールのくれたイノシシ革のブーツは、どんな時もブランシュの足を守ってくれる。

「ブランシュ様、この後はどうします」
「ジビエパルクに行きましょう」

 ブランシュは、前世での道の駅を参考に、ジビエ料理の店をはじめとした飲食店、革細工の店などを集めた小間物屋。そして採れたての野菜を売る直売所をひとつにし、ジビエパルクと名付けた。

 辺境地であるダヤン領が発展するためには、やはりなにかしらの新しい試みが必要だと思ったのだ。
 場所は、王都から続く街道沿いに作った。領主館に行く途中にあり、ダヤン領のことがここでよくわかるよう、歴史も紹介している。

「こんにちは、どうかしら調子は」
「あっ、ブランシュ様。お客様、たくさん入っていますよ」

 ブランシュは、ルネから聞いたことのすべてを、中央神殿に報告した。
 リシュアンがもとは魔獣だったということを公表することには、反対意見も多かったが、リシュアンとルネが世界を守り続けていることを、公表するべきだとの意見もあり、結局公開に踏み切ったのだ。

「ほら、ルネのパペットよ。どうかしら」

 その手法としてブランシュが提案したのは、人形劇でルネとリシュアンの物語を披露することだ。

 まずは、偏見の少ない子供たちに彼らのことを理解してもらい、徐々に大人たちにも理解してもらうのだ。神としてまつられた魔獣は、体を失ってもなお、皆を活かすために力を尽くしてくれているのだと。

「ブランシュ様の結婚式もここでするのですよね?」
「ふふ。なんだか恥ずかしいけれど、この場所を知ってもらうのには一番だもの」

 聖女の降嫁ということもあり、ブランシュの結婚は全国に知れ渡っている。
 そこで、宣伝も兼ねてジビエパルクでやることにしたのだ。ここを、ダヤン領の新名所だと知ってもらうために。

「私たちも、楽しみです」

 従業員たちが笑顔でそう言ってくれるのが、ブランシュにはなによりもうれしかった。