聖獣たちは混乱していた。ドルフはルングレン山の聖獣の中では二番目に強い。彼が加護を与えると言うならば、彼に優先権があるのだ。

『……俺は、あの子に加護を与えて、ドルフに恨まれたくない』
『俺も嫌かな。ドルフは敵に回したくない』

 聖獣たちが、こそこそと話していると、ホワイティがぽそりと言った

『あれだけにおいをつけているんだし、いつかはドルフがあの子を守ってくれるんじゃない?』

 全員が頷き、沈黙を守っていたダグラスに視線を送る。彼もしかめっ面で悩んでいたが、やがて頷いた。

『……いいだろう。あの子のことは、ドルフに任せてみようじゃないか』

 これまで、聖獣の加護が得られなかった王家の子はいない。彼女が傷つくのは想像に難くなく、誰もが同情的にはなったが、ダグラスがそういうならと頷いた。

「誰からも加護が得られなかったのですか?」
「フィオナ様は、王族として認められなかったということですかな」

 周りの大人たちの言葉に、銀色の髪の少女は、どんどんうつむいていく。

『ダグラス様ぁ。可哀想だよぅ』
『ドルフだって考えがあって一緒にいるんだろう。あいつに任せるんだ』

 そうして、聖獣たちは、半泣きのフィオナを見送った。ドルフが彼女を守ってくれることを願いながら。

 数年後、ホワイティからドルフがフィオナに加護を与えたと聞かされた聖獣たちは、心底ほっとしたのと同時に、『ドルフって意地っ張りだよな』と笑い話にしていたのだった。

【Fin】