「私、浮気性な男は嫌いですけど、一途で謎の多い男の人は少しだけ好みですのよ?」


「それが、「君を殺した」と言う男でも?」


アルト様が嘲笑《あざわら》うように微笑んだ。


「初めてアルト様が私に声をかけた下さった時も、私はレーヴィン殿下とあの男爵令嬢に責められていた。貴方は私を助けるために、私を連れ出した」

「そして私がリーネ・フローリアであった時の実家を訪れ、母とリリに会った日も貴方は私の前に現れた」

「私が自分がリーネ・フローリアであると明かせず、家族との再会の後に泣いているのではないかと考えた。そして、慰めるために屋敷の前で待っていた」

「・・・アルト様、貴方は優しい人間です。何故冷たい人間のふりをするのですか?」


アルト様は私の言葉を聞いても、何も仰らない。


私はアルト様の頬から手を離し、その場を去ろうとする。

しかし、最後にアルト様の方を振り返った。



「・・・私の一番の好みは、優しい人ですのよ?」



そう述べて私はアルト様の元を去り、教室に戻る。




「・・・リーネ、君はずっと変わらない。ずっと、俺の愛しい人だ」




そう呟いたアルト様の声は、私には届かなかった。