そんな言葉を聞き流しながら、私は上々の気分で顔を上げた。

 ケーキっ、ケーキっ。

 私の頭の中はケーキの事でいっぱいで、それ以外の事は考えられなくなっていた。

 でもその途端、「……あ。」と情けない声が洩れる。

「俺が許可出すまで、動いたらダメだって言わなかったっけ?」

「……っ、知らないよそんなのっ!」

 私はケーキを食べるんだっ……! 彼に付き合ってられるかって。

 ふんすと怒りながら、半ばやけになり自分の部屋から出ていく。

 そして大きな階段の音を聞きながら、私は急いでキッチンへ向かった。

「……ほんとーに、無自覚。」

 私が居なくなった部屋で呟かれた言葉は、どこか不満そう。

 けどそんなの知る由もなく、私は抹茶ケーキを堪能していた。

「んふふ~、うま~……。」

 ※これは友達との喧嘩ではありません。

 ――“婚約者”との喧嘩です。