「するフリに決まってるではないか!」
「え?」
「あなたを攫うためにここまで抱きかかえてきただけでも緊張したというのに、その上美しく愛らしい唇に触れるなど……爆死しそうだ」
「はい?」

(爆死って……流石に大げさでは?)

「と、とにかく! キスはもう少し仲を深めてから――」
「では手でもつなぎましょうか? ハグでも良いですよ?」

 本当にハグまでするつもりはないが、試しに言ってみた。
 すると案の定。

「は、は、ハグ……⁉」

 ジェラールの顔は先ほどと同じくらい赤くなる。
 もはや顔から湯気が出てきそうだ。

「……」

(どうしましょう……これは、ちょっと本気で楽しいかも)

 口元の緩みが抑えられないほどになる。
 表情を取り繕うことが出来なくなり、クスクスと笑ってしまった。

「と、とにかく今日はここで休むといい。この先のことはまた明日話すとしよう!」

 赤い顔のまま表情だけは取り繕って、ジェラールはユリアを残し部屋を出て行った。
 閉じられたドアを見つめながら、ユリアは思う。

(助けが来るのは時間がかかりそうだし、ちょっとくらい楽しんでもいいわよね?)

 末姫で甘やかされたユリアは、実はイタズラ好きでもあったのだった。

END