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<しかし、失敗だったのやも知れぬーー>

 我が輩はルネから贈られてきた供物を眺め思う。

 王太子妃となり、日に日に豪華になる供物。

 しかし、比例するように信仰心は必死さを増してくる。

『どうか、ルナール領に帰らせてください』

 涙に暮れるルネの願いが、痛いほど伝わってくるのだ。

 ルネは王太子妃になってから、一度もルナール領には帰っていなかった。
 
<幸せになれたのだと思ったのだがな……>

 我が輩は後悔していた。

<王の妃というのは、人間の雌のなかでは一番の幸福ではなかったか? 我が輩はそう聞いていたのだが>

 ルネのおかげで、綺麗になっていく神殿。
 豪華な供物だけではなく、寄付も盛大にしてくれる。
 しかし、ルネの願いはただひとつ。

『どうか、ルナール領に帰らせてください』

 切実な思いが、我が輩の心を締め付ける。
 どうにかかなえてやりたいと、そう思っていた矢先、ルネは処刑され、領地は無法者に荒らされた。

 だから、我が輩は最後の力をルネに使うと決めたのだ。

<ルネの死に戻りに力を貸してくれまいか>

 我が輩は、キツネの大精霊たちに頭を下げた。
 今まで生きてきて初めての屈辱だ。
 しかし、背に腹は代えられぬ。
 ルネのためならしかたがない。

 大精霊の仲間達は、驚いたように我が輩を見て、静かに頷いた。

 ライネケがそこまで言うのなら、きっといい子なのだろうからーー。

 満場一致でルネの逆行転生が可決された。