それから、カミルが目覚めてから──初めての夏が訪れる。

 お医者様が言った通り、夫の体には障害が残り、それは一人で満足に歩くことすらままならないものだった。
 皮肉なことに意識がなかった時と比べて、起きている今の方が肉体の衰えは早くなっていた。
 目覚めた後も何度か昏睡状態に入り、その都度何とか覚醒し、大きく体力を消耗する。
 
 口には出さなかったけど、誰もが気付いていた。
 夫の命の灯は残り少ない。もう、あとわずかであると。

 
 カミルの意識が戻ってからも、私の生活はさほど変わりはしなかった。
 勉強と執務と、それからできる限りそばに付いてあげること。
 可能なら、もっと長くいっしょにいたかったけど、それでは逆に夫が気疲れしてしまうと思い、前と比べて二人の時間を多少増やしたという程度に留めた。

 その代わり、一秒一秒を大切に過ごした。
 二人でいる時は、ずっと彼を見続けて、ずっと彼に耳を傾けていた。
 この優しい視線を忘れないように。
 私に話しかけてくれる声を、忘れないように。