私には。

私には、私には。



「無理だよ………っ!!」



分かってる、これがただの八つ当たりなこと。

結構なダメな奴だってこと。

自分が、私だけが、ということ。

なんで、そんなことが言えるの。

なんで、そんな簡単に絵を描こうなんて言えるの。

そりゃあ、アンタは天才様だから、できるでしょうよ。

アンタの絵、私は好きだけど、でも、私は描けないに決まっているでしょう。



「私の——っ、私のことなんて何一つ知らないくせに…——!!!」



はっ、と口を覆う。

言ってしまってから、気づく。

私、最低だ。

ただの八つ当たりで、何も、鹿野くんは悪くないのに。

なのに、私、今、なんて言った——…?



「——…っ」

「……森永、」

「ごめ……っ、——っ!」



名前を呼んでくる鹿野くんに、今の私を見られたくなくて。

ただ八つ当たりしたって事実を、忘れたくて。

ああ、ごめん、

その一言が、消えていった。

私は、教室を飛び出して、走った。