——いつもなら。
いつもなら、当たり前のように嘘がつけるのに。誤魔化すことができるのに。
できない、言葉が出てこない。
……あぁ。
世界から、きらきらが失われていく。
あの時と、同じだ。
「絵」
「……っ、あ……」
絵、ていう一言。
たった一言。
その一言だけで、世界はきらきらするんだよ。
私にとって、絵、ほど熱中できるものもないんだ。
「描かなくていいのか」
一瞬、何を言っているんだろうと思った。
言葉の意味が、分からない。
何を言っているんだろう。
理解が追い付かない。
描かなくていいのか、って、そんなの、私には——…、
「…………だよ」
「次、美術だから絵、描けるぞ。好きなんだろ、下手だったとしてもフツーにノリで行っちゃえば?それができるやつだろ、お前」
「…ざ、………よ」
「移動教室だから、急がねぇと——」
「ふざけないでよ……っ、」
声を絞り出す。
「ふざけんなよ……っ、私には——!」