私は、左脳と右半身の先天性の奇形、麻痺がある。

だからそれ以外で馬鹿にされないようにしてきた。



作文が得意だった。

コンクールに応募しては受賞を重ねた。



学力も頑張って、2歳ごろからつけていた。

実際、某全国模試の結果は数学満点で一位。
国語理科共に偏差値70。

授業の行われない社会と英語は偏差値47だったが、半年で55に。




バスケやサッカー、野球は、それぞれを習っている友人に聞いた。
実際、野球は参加させてもらったこともある。

陸上も小学校高学年でやり始め、男女混合1000mでは2位。また、5500mも練習した。



でも、小学校では、誰もそれを認めてはくれなかった。

「右耳のねぇバケモンが。中二病か?ww」

今考えると、ノリで受けた中学受験は、この環境から逃げるためだったかもしれない。




新しい環境、中学校。

登下校にかかる時間は4時間。


しかし始め、中学校生活は快適だった。

小学生時代と違い、私の力を認めてくれる人が多くいた。


「天才だね」と何人かが言ってくれ、嬉しいような悲しいような。

嬉しいのは、他人から褒められたことなんてなかったから。
悲しいのは、誰も私の手のマメを、擦りむいた膝を見てくれていないとわかったから。

それでも。
楽しかった。


けれども、この時の友の、いや、友だと思っていた一人が、後の私に悪影響を与えた。




中学校生活が落ち着き始める2学期。
行事も多く、カップルもできやすい頃である。


そんな時、私は...。

「嘘です!そんなことしてません!」

とある男子に嘘の噂を流され、先生からは呼び出され、友は離れていくという状況にあった。



彼、Y.Tはかつて私ととても仲が良く、いろいろなことを話した。

故に、噂の中に事実が混ざっていて、大変悪質だった。


噂単体でも悪質なレベルで、例えば私が夜遊びしていただとか、妊娠したとか。

この時期に流れる男女関係の噂は、良くも悪くも流れるのが早くてーーー。




結局、私は成績すらも落とされ、一人の先生と二人ほどの友としか話さなくなった。

一人の先生は、私を軽蔑することなく、初めて質問をした時も、むしろ褒めてくださった。
家の事情で部活へ行けない私に、仮入部もさせてくださった。



そんなある日。

私は駐輪場にいた。
私の学校で人が一番集まらないのが駐輪場だったから。


まだ9月終わりのはずなのに、若干寒い。

でも、私の住んでいるところより良くも悪くも田舎。空気は透き通っている。

私は深呼吸しつつ、一人の時間を楽しんでいた。



するといきなり、ポーン、と自転車のヘルメットが私の鼻先に飛んできた。

驚き慌てて隠れる。




そっと物陰からのぞくと、ヘルメットを拾う人影は、隣のクラスの一軍男子だった。

今日は雨が降るかもしれない。自分の運のなさを嘆いた。












私は彼が大嫌いだ。

自分の才能の使い方がわからないのに、認めてもらおうと仮面を取り繕う。
その日は息を潜め、何事もなかった。



しかし、その数日後。いつものように仮入部の部室に入ると。

「ぅげぇっ」

思わず声が漏れる。



そう、いつも私が座る席に誰かがいるのだ。



数日前の大嫌いな彼、Aだった。

Aって絶対この部活じゃないだろ…

「こんにちは。。。」

私は声をかけた。すると、ちらっと一瞬、私のほうを見て、無言で目をそらされる。

私の席に勝手に座らないでよ。そう思った。

私は仮入部の身、文句を言える立場ではない。

が、毎日部活に出る子たちは私の席を知っていた。


おそらくまたあいつだ。



私は右後ろの席を睨む。


そこには、にっくきY.Tの姿。





Y.T。私の敵。
私は噂真っ青の男嫌いなのだ。

それを知っていてここに座るよう促したのだろう。


「あの、そこ座っていいですかね?その席が一番好きなんですよ。」

私はAに問う。彼はじっと私を見ると。

「。。。」

自分の体を椅子の右端へ寄せた。




ーーーはい?

理解不能すぎる。
あなた、私の言った意味分かってます?

「。。。」

私の顔に書いてあったんだろう、ポンポンと椅子を叩くA。
座れば?と言いたいのか。

いやいやいや、違います。そうじゃありません。丁重にお断りします。

「。。。」

座っていいかとしか聞かれてない。そう彼の顔に書いてある。

あなたも大概、顔に出ますね?


その顔、クラスメートの女子が見たら失神しますよ。


「じゃあ、ーーー僕の体に触んじゃねぇぞ?そんときゃ突き飛ばすかんな。」

そうAにささやき、私は彼と同じ椅子に座る。


椅子よ、耐えてくれ給え。すまない。

「。。。」

口が悪いな、と言いたげなAの目。お黙り。



かつてを思い出す。



私は小学生時代の陸上で、男と女が8対1だった。途中から、女子が一人加わったが。

それに、小学校で私をいじめた親玉は女。男も少しは関わっていたため、比較的嫌いだ。


それでも、男がギリギリ私の付き合える範囲なのだ。

となると、男の言葉遣いは移る。しゃーね。(←これ)



しかしこいつ、思ったより無口だ。居心地も悪くはない。

「。。。」

目の前にあるPCをいじり、自分のアカウントのログアウトをしたA。
私のほうをじっと見た。

私は自分のIDを打ち入れる。が、パスワードが入らない。

「。。。」

「tyottobakari...mamaniarigatou.」

大好きな歌の歌詞をパスワードにしてる私。

約100文字のアルファベットの羅列を彼に言うと、すぐ打ち込んでくれた。

すごいなと感心した、その時。



「。。。水〇あつさんの歌?」


初めて、彼の声を聞いた気がした。きれいな黒い瞳が、私を見ている。


「好きなの。あとは、れる〇りとか。」

「れ〇りり?!まじかぁ、俺は厨病〇発ボーイってのが好きでさ。」


驚いた。私自身に。こんな話をできるんだ。

「歌好きなの?あんた。」

そうAに聞くと、彼は答えた。


「そうだな。。。歌が好きっていうか、歌うのが好きだ。」


ちなみにここでは音楽部門だぞ。そう彼は言葉をつづけた。

そうなのか。私は納得する。
私の学校の、この部室を使う部活は4部門に分かれている。


作曲や歌ってみた作品を作る、音楽部門。

イラストや小説などを書ける、文芸部門。

プログラミング作品を作れる、PC部門。

創作ダンスなどに取り組める、ダンス部。



まぁ、ダンス部に関して言えば、この部室にすら出てこないため、運動部扱いだ。故に、呼び方は部。

他にも文芸部門は、文と芸、小説や詩を書くほうと、イラストやアニメーションを描くほうに分かれる。


ーーーあれ?

「あんた、一学期の発表、出てないんじゃ?」

「。。。まぁ。。。うん。。。。。。」

ーーーなるほどね。私はうなずく。

実はこの部活は学期末に創作物発表がある。

それに参加させてもらい、いた人の顔をすべて覚えた私だが、Aを知らなかった。

故に、あのにっくきクソ野郎がAを呼んだと判断するゆえんに至ったのであった。



一応、記憶力はいいほう。

Y.Tよ、今回ばかりは私の勘違いです。ごめんなさい。君が彼を呼んだわけではないんですね。





「あーーーーーっ!!Y.T!!てめぇ死に堕ちろ!」




考えながらアモアス(宇宙人狼)タスク(ミッション)をこなしていると、人狼だったらしいY.Tに殺された。



「あ、人狼T氏だったんだな?!」

「みんなー!Yに投票入れろー!!」




私を殺して足がついてしまったY.Tはその後の投票で死に、ゲームリセット。ざまーみろ。


IMPOSTOR(インポスター)


ほいほーい。

私の画面に次に表示された文字は、人狼をあらわす文字だった。なにぶん私は人狼をよく引く。慣れているのだ。



「お前は?」



私にそう聞く、隣の席のS君。

目くばせをすると、理解したらしく、殺すなよとキーボードを叩いた。




ふぅ。私は息を吐く。


と。
息を吐いたとき気づいた。

Aの手が、私の肩に回されていた。

いつからだろうか、気づきもしなかった。

「この手は何かしら?」
私は彼の手に自分の手を重ねながらつぶやく。


ゆっくり沿わせるようにして、握る。これで彼の手は逃げられない。

「っ!」


周りから見たらロマンチックそのものだろうが、当事者2人にはわかる。この状況がいかにまずいか。

それは、私の力の強さ。


彼はおそらく、何かスポーツをしている。

何かをしていた者同士、そこそこわかるのだ。





私が手にあと少しの力を入れればーーー

ーーー彼の手の骨は何本か折れる。私の肩を巻き添えにして。

(ちなみに主には握力が40数キログラムあるものとする。by今の主)


「。。。悪意はないみたいにみえたから、別にいいわよ。ただし、私がいきなり暴れてもしらないから。」




彼の手を離す。私は右手でカーソル移動しながら、タスクをこなしていた人を殺した。





「ぃっ。。。ぅ、ぁ。。。」

しばらくすると、神経麻痺の症状が出始め、右手がけいれんを起こす。


すっと、彼の右手が私の肩から離れた。

「どっち?」

「右。。ぅっ。。。。奥。」




代わりに操作をしてくれる気のようだ。

私は手を押さえながら指示を出す。


本当に痛い。

これを右半身に抱えた自分を呪う。







カタカタと震える私を見たAは。

自身の左手で私の体を撫でてくれた。

まるでその手つきは壊れ物を扱っているようで。








なんでか。





泣きたくなった。




悲しいわけでもないのに。




心の底から、泣きたくなった。








でも。

絶対に泣かない。


男に涙を見せたら最後、つけこまれる。

女に涙を見せたら最後、いじめられる。


『嫌ぁっ!誰かっ。。。!う。。。ぇっ。。。。。。げぼっ。。。』

『おいおい、腹殴ったぐらいでへばるなよぉ?長距離担当だろうが!おら、誰か口ふさげ!ww特別授業だww』

『おい、顔上げろ!おらっ!お前、歯ぁ立てずに(くわ)えろ!失敗したら何回でも殴るからなぁ~?』



『おいおい~、これ以上こいつ殴ったら子供出来なくなるだろw』

『いいだろ、バレにくくなるってことだよwお前らも楽しめww』

『先生、頭いいっすね、一生俺らついていきますわ!』

『いった。。。!いや、やめ。。。!!ん。。。ぐぅ。。。!!!』



『いやぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!!』


小学生時代のトラウマがよみがえる。








ぐっ、と歯を食いしばった。











あれは無力だった私。



私はもう、無力じゃない。

利用できるものはなんだって使ってやる。





信じた私が、バカだっただけ。

最初思ったように、信じなきゃよかったんだ。





悪夢を思い出し切って、現実に戻った意識。

Aの手は、私の肩におかれたままだった。



その手は、すごくあったたかった。



彼の肩に私は寄りかかる。



でも、この人は、大丈夫だよね。

心の中でそう唱える。




確証があった。

私の中に。







だって






彼の目は



私と同じ色をしていたから。










だから


この甘い時間を



優しく包まれ身も心も溶かされなくなるような時間を。











もうひと時、過ごしていたい。


私は彼にすり寄る。


「。。。?」



彼の低い柔らかな声は、私を安心させるのには、十分で。






Aの落ち着いた心臓の音を、私は深いところで聞いていた。



















~とある中二女子の毎日 ‐1‐  END~