もう、こっちは良かったあああって感じですよ。
 大きく息を吐いて倒れ込みたいくらい。
 もちろんお客さんの前でそんなことはしませんけどね。

 で、まあ、店の奥から小さなテーブルとイスを運んで。
 他のお客さんが入ってこないように閉店の看板を出して。
 ケーキをお皿に移して、紅茶も淹れて。
 それで騎士さんに食べていただいたんです。

「うん、やっぱりおいしいよ」

 ああ、その一言だけで、報われた気がしましたね。
 嬉しかったです。その言葉が何よりも。

「ありがとう、いろいろ気を使ってもらっちゃって」

「いえ、お気になさらずに。どうぞこれからも遠慮なくいらして下さいね」

 そんな感じで、騎士さんはちょくちょくお店に通ってくれるようになりました。
 彼だけ、閉店後に。私も机と椅子と紅茶をお出しして、召し上がっていかれるように店内をセッティングします。

 それで、恐縮なんですけど……それが何回も続くうちに、結構親しくなれたんだと思います。
 騎士さんは、ご自身のことも色々話して下さるようになりました。

 近くの寮で生活しているんだとか。
 故郷は北方の山村にあるんだとか。
 近々、昇任試験があって、受かれば役付きになれるんだとか。
 付き合ってらっしゃる女性の方は……今はいないんだとか。