「え……」

 ミリナの目が驚きに見開かれる。
 それはそうだ。初対面の相手からこうもひどい言葉を投げつけられればそんな顔にもなる。

「いいえ、なんでもありませんわ。ただ、そう、ただ……ここは高等教育を受けた貴族ならば入ることもたやすい学園ですが、庶民のあなたが入るなんて、ねえ……」

 金を積んで裏口入学をしたのじゃないか、と疑うように見て、アリアナは縦に巻かれた豪奢な赤毛をふわりと指先でもてあそんだ。ミリナは庶民ではあるが、国有数の商人の娘だった。

 周りの生徒が気まずそうにミリナから目をそらす。侯爵家という後ろ盾と、王太子という婚約者のいるアリアナに逆らえば面倒なことになる、そう思っているのだろう。
 アリアナが口元にはいた笑みが、アリアナ自身の意地悪そうなまなざしを強調して、彼女の悪意をありありと表していた。

 そう――すくなくとも、他者の目にはそう見えたはずだ。

 たとえ、アリアナ本人にそんな気が全くなくとも。

 実際には、アリアナは優しく微笑んだつもりだったし、アリアナが言おうとしたことは「平民なのにこの学園に入学するなんて、よほど努力したのですね」という尊敬の言葉だった。