「茉白はどうしたい?」

しばらくして茉白が泣き止むと、遙斗は茉白の目を見て言った。

「え…」


「茉白が助けて欲しいって言えば、俺なら助けられるよ。」


「………だ、だめ…です…それは…」
茉白は慌てたようにまた首を横に振った。

「なんで?」

「だってそれは…シャルドンには…雪村専務にはマイナスでしかないから…ご迷惑はおかけできないです…」

「頑固だな…」
遙斗は困ったように苦笑いをした。

「なら…影沼と結婚するの?」

「………そんな質問……ひどい……です…」

想いが通じ合っても遙斗と結婚できるとは思えない以上、茉白の選ぶ道は同じだ。

「じゃあ質問を変えようか。」

「………」


「影沼と結婚したい?」


遙斗は茉白の目をまっすぐ見据えた。

「………」
茉白は目を潤ませて首を横に振った。

「…たくない…したくない…です…」

遙斗はまた茉白を抱きしめた。


「……雪村専務以外のひとに…」

「うん」


「……触れられたくない…です…」


———はぁ…

遙斗は溜息を()いた。

「煽るのが上手いな…」

遙斗は茉白のほつれた前髪を避け、頬に触れた。
「そんな表情(かお)でそんなこと言われたら、俺だって理性が保てなくなる…」

茉白はコク…と小さく頷いた。

遙斗は恥ずかしくなって俯いた茉白の顔を自分の方に向かせると、唇に触れるようなキスをした。

「俺は“専務”なんて名前じゃない。」
遙斗が茉白の耳元で囁くように言った。

「……は…ると…さん…」

「可愛いな」

茉白の(まなじり)に落とされた遙斗の唇は、ついばむように茉白の唇に触れ、次第に吐息ごと()むようなキスに変わっていく。

「…っ…んっ……」

キスが深くなり、混ざり合った吐息が熱を帯びる。
茉白の手が不安気に遙斗の服を掴む。


「申し訳ないけど、今夜は家まで送れそうにない」