「あ、綿貫さん、LOSKAの真嶋です。」
茉白は綿貫工場長に電話をかけた。

『…茉白さん?なんの用ですか?』

明らかに冷たい声色の綿貫に、茉白は一瞬戸惑った。

「あの…」

『御社とは長い付き合いで、良いお付き合いをさせていただいているつもりだったんですけどね。』
綿貫が呆れたような溜息混じりの声で言う。

「すみません、綿貫さん…何があったのか聞いてもよろしいですか?」

『え?あの方、影沼部長でしたっけ?あなたの婚約者だっておっしゃってましたけど…何も知らないんですか?』

「…正式に婚約しているわけではないので…すみません、社内のことなのに把握できてないんです。」

『………』

綿貫は電話口で大きな溜息を()くと口を開いた。

『先日、影沼部長がいらして、外国製のポーチの仕上げだけ綿貫繊維工業(うち)で行って、それを日本製のポーチとして販売したいんだと打診されました。』

「え!?」

『安い海外製の商品の仕上げを日本でやれば日本製にできる、というグレーなやり方もあるのは事実ですよ。利益率が上がりますからね。ただ、うちはプライドを持って仕事をしているのでお断りしました。見本で持ってこられたポーチの縫製も酷かったですしね。』

「そんな…」

『お断りしたら“取引中止だ”と言われましたので、うちとしても御社との付き合いはこれまでかな…と。茉白さんには良くしていただいたので残念ですが…』

「綿貫さん、本当に申し訳ありません。大変失礼なことを…。社内で話し合いますので、取引中止は考え直してください。」
茉白は平謝りで電話を切った。