「ここに、あるよ───」
蛍さんの大きな手が、わたしの心臓の位置に添えられた。
ドクン───ッ、と心臓が大きく鳴った。蛍さんがくれた命が、わたしの心臓の中にある。何だかとても変な気持ちがして、わたしは非現実的な出来事に冷や汗が流れた。
今思えば、蛍さんと出会ったあの日から、非現実的なことばかりだった。今まで張り詰めていた疲れがどっと押し寄せてきて、急激な眠気に襲われる。
「蛍さん、わたし、もう、死にたいだなんて思いません」
今まで沢山、死にたいと思った夜があった。だけどきっと、今日からは、この世界で唯一のわたしの愛しくて大切な人が、側にいてくれるから。
どんなに辛い夜も、きっと意味はあった。
じゃなきゃ、きっとわたしと蛍さんはもう一度巡り会えてはいないのだから───。
「柚葉……、これから一緒に沢山生きていこう。他の人よりも寿命は短いけれど、それでも良かったと思えるように、これまでしてこれなかったこと、いっぱいしていこう」
蛍さんの優しくて低い声が、子守唄となってわたしの耳に入ってくる。蛍さんは優しくわたしを抱き寄せて、そっと胸にわたしの頭を傾けてくれた。
今はもう、静かに眠りたい。この人の腕の中で、沢山の朝を迎えたい。
「ありがとう、ホタル。大好き。わたしは今、すごく幸せだよ───」
あの頃の幼いわたしが、眠気の中に現れた。蛍さんは一度大きく目を見開いてから、世界で一番愛おしいものを見つめるような涙に濡れた瞳で、ふわりと優しく微笑んだ。