なぜ、柚葉は昔のことを忘れてしまっているのか。今までずっと、柚葉は俺との昔のことを知っているものだと、そう思い込んできたけれど、それは違った。

 出会ったときから柚葉は俺のことを知っているようだったし、もちろん“幼馴染”としての俺として話してくれているのだと勝手に決めつけていた。

 まさか、柚葉が、過去を忘れてしまっていたなんて───……。

 どうしてだろう。なんで、柚葉は記憶を失ってしまっている?


『柚葉はきっと、沢山の苦しみに追い詰められて、過去の記憶さえ失ってしまったんだと思う。……そうでないと、柚葉が“あの頃”のことを忘れるはずがないから……』


 俺は自分が柚葉に向けて言った言葉を思い出し、一度深く唸った。だって、俺が言った通りでなきゃ、柚葉が俺のことを忘れるなんてこと、有り得ないんだ。

 だけど、これは単なる俺の欲望で、柚葉との過去に執着し続けてしまっている何よりの証拠だ。


「───俺と柚葉は、昔、幼馴染だったんだよ」

「っ、え───?」


 柚葉のひどく動揺した顔が、俺の真っ黒な瞳に映し出される。柚葉があの大昔の夜のことを覚えていないのなら、俺がもう一度話す必要がある。

 あの日は、二人にとっての“運命の日”だったのだから……。