過去のことなんて別に大したことじゃないと思っていたから、もうここ最近は思い出そうとすることもやめていたけれど……。


「うん、そうだよ……っ。まさか、忘れちゃったの……?…だからあの日、柚葉はあんな反応を……、」


 蛍さんが自分には聞こえない小さな声で何かを焦ったようにして呟いている。あんな反応っていうのは、蛍さんがわたしの名前を言ったことに対して驚いてしまったことかな……?


「……蛍さんは、わたしに出会ったのが初めてではなかったんですか?」


 わたしは昔の記憶のことが曖昧だから、もし蛍さんと会ったことがあったとしても、それを思い出すことは出来ないだろう。

 だけど、わたしが知らない、蛍さんだけが知っているわたしたちの過去を思い出せないのが、どうしようもなく悔しかった。


「柚葉はきっと、沢山の苦しみに追い詰められて、過去の記憶さえ失ってしまったんだと思う。……そうでないと、柚葉が“あの頃”のことを忘れるはずがないから……」


 視線を公園の砂利に落として、考え込むように瞳を伏せてしまった蛍さん。わたしは、本当に蛍さんと過ごした時間を、忘れてしまっているのだろうか……。


「───俺と柚葉は、昔、幼馴染だったんだよ」