蛍さんはそんなわたしの何かを察したのか、自分のスマホをわたしと同じように黒色のジーンズの左ポケットから取り出して、ツイッターのページを開く。

 文字を打つ手がどうしても震えてしまう。何も悪いことをしていないはずなのに、わたしは自分の心の内を話すことが、こんなにも苦手になってしまっていた。


【蛍さん】


 長い時間をかけて、やっと打てたのがこの三文字。わたしの初めての呟きが、瞬く間にみんなが見れる公開ページに表示された。

 蛍さんは自分のスマホをガン見して、大きく見開かれた目を画面上から逸らさない。わたしが呟いた、自分の名前を見ているのだろう。


「……柚葉、俺のアカウントのメッセージから話さないか?その方が、この会話は誰にも見られずに済……、「蛍さん」


 わたしは静かな、だけどどこか強い声で蛍さんの言葉を遮って、強く揺るがない瞳を蛍さんに向けた。そんな視線で見つめられたからか、蛍さんの少しの動揺が肌を通して伝わってくる。


「……わたしは、この画面上にいるみんなみたいに、自分の悩みを沢山の人たちに吐き出せることをずっと憧れていました」


 たどたどしい口調で、自分の気持ちを一生懸命に伝える。何年もの間、他人の心を理解するのを放棄してしまっていたわたしは、人との接し方さえこの数年で忘れてしまっていたのだろう。