頭の中に名前が浮かび上がった瞬間、オーレリアはあっと声を上げた。
「トラヴィス様の運命の相手は…………私、私ですっ」

 今までちっとも気にしていなかったけれど、オーレリアの左手小指の赤い糸はトラヴィスの小指の赤い糸へと繋がっていた。しかもそれは黄金の光を帯びた強固な糸だ。


 嬉しくてオーレリアの視界がぐにゃりと歪む。まさかトラヴィスの運命の相手が自分だったなんて思いもしなかった。
 トラヴィスはオーレリアの涙を指の腹で拭ってやりながら頭をぽんぽんと優しく叩く。

「これで安心できたかい? これでも随分と分かりやすくオーレリアに好意を示してきたつもりだったけど……気づかなかったのは側妃になると思っていたから? それとも私の表現の仕方が悪かったから? 後者ならもう少し積極的になってみてもいいのかもしれないね」
 にっこりと笑みを浮かべるトラヴィスはオーレリアの手を取るとその甲にキスを落とす。


「オーレリア王女、私はあなたが好きだよ。運命の相手だろうとなかろうと、私はあなたと添い遂げたいってずっと思っていた。そして私の妻は生涯あなただけだ」
 そう言ってトラヴィスはオーレリアの前に跪くと懐から黒くて四角い箱を取り出す。箱の蓋が開かれると中にはオーレリアの瞳と同じ色のアクアマリンの指輪があった。楕円形のアクアマリンの周りにダイアモンドが装飾されて花の形になっている。

「皇帝代理とはいえ、誰かを娶るとなると父上の許可がいるし顔合わせをしなくてはいけない。神殿の神官長とも相談したら今日が最も好ましい日で、だから面会謝絶が解除されても会わせなかったんだ」
「そう、だったんですね」

 オーレリアは皇帝との面会が先延ばしにされていた理由が分かってすっきりした。ぞんざいに扱われているわけではなかったということがはっきりしたからかもしれない。
 胸がすくのを感じているとトラヴィスが再び声を掛けてくる。