「おやめください! 私はあなたの運命の相手じゃないんです!! こんなことをしたって不毛に終わるだけです」
「……どうして不毛に終わると言えるんだ?」

 頭上から擦れた声が降ってきて、オーレリアは顔を上げる。
 するとそこには今まで一度も見たことのない切ない表情を浮かべるトラヴィスがじっとこちらを見つめていた。


(どうしてトラヴィス様がそんな顔をするの?)
 息ができないくらい胸が苦しくて辛いのはオーレリアの方だというのに。
 オーレリアは奥歯を噛みしめると、震える唇から声を絞り出した。

「だって、だって……トラヴィス様の運命の相手はビクトリア様だからです。私じゃありません!!」
「ビクトリアは私の運命の相手じゃないよ」
「どうしてそんなことが言い切れるんですか? トラヴィス様は神の恵みで運命の相手を確かめられないのに!」

 だから離して、というようにオーレリアがトラヴィスの胸を押しのけようとすると、トラヴィスがぴったりとくっつくように抱き寄せてくる。


「それなら心配ない。ビクトリアは従姉妹で、幼い見た目だけど私と同い年だよ。だからもし彼女が私の運命の相手なら以前確認してもらった時に赤い糸がついていたはずだ。それと彼女には婚約者がいる。……相手はフレディだ」
「フレディ様?」
 驚嘆したオーレリアは二の句が継げない。

 オーレリアは昨日の状況を思い出した。
 あの時、フレディはトラヴィスの陰に隠れていた。フレディとビクトリアの赤い糸の間にトラヴィスが立っていたことで、トラヴィスとビクトリアが運命の赤い糸で結ばれているように錯覚してしまっていたようだ。

 オーレリアが黙り込んでいるとトラヴィスが先に言葉を紡いだ。