慌てて涙を拭い、何でもないと説明する。しかし尚もトラヴィスが心配そうに眉根を寄せて眺めてくる。

 運命の相手がいることを言うか言わないか迷っていたオーレリアだったが、トラヴィスの表情を見て後ろめたさを感じた。初めてオーレリアの神の恵みを認めてくれたトラヴィスに偽りを語って不幸にしたくない。

(私の神の恵みは誰も傷つけない、誰かを幸せにする力だって言ってくれたから……)
 オーレリアは決心すると重たい口を開いた。

「実は昨日、トラヴィス様に運命の相手が現れました」
 トラヴィスはオーレリアの告白を受けて目を見張った。そしてすぐに背中をくるりと向けてしまう。
「……そうか。それなら尚更陛下と会ってしまおう」
 トラヴィスはオーレリアの手を引いて再び歩き始める。

 運命の相手の名前を聞く前に、皇帝代理としてオーレリアと皇帝を先に引き合わせる責務を果たしたいようだ。
(一刻も早く私を側妃にしたいわよね……)
 これがトラヴィスの仕事だと頭では理解できても胸が苦しくて息が詰まりそうになる。

 オーレリアは俯くと重たい足取りで再び歩き始めた。