「私はいつになったら陛下と結婚できるのかしら……」

 義理の息子となる二人の皇子の結婚が決まった。三人中二人の縁を結んだのだから皇帝も胸のつかえが下りているはずだ。

 そろそろ自分の結婚についてどうなっているのか皇帝代理であるトラヴィスへ相談してもいいだろうか。


(このままずっと中途半端な状態でいるのは嫌だわ。……ひょっとしたら私がここに来た本来の目的を皆が忘れているかもしれない。やっぱり、一度訊いてみないと)

 部屋の窓の縁に両肘をついて頬に当て、外の景色を眺めていたオーレリアは決心すると部屋を出てトラヴィスがいる執務室へと向かう。
 長い廊下を歩いて角を曲がり、庭園を横切った先に彼の執務室がある。


 オーレリアが足早に廊下を歩いていると、庭園でトラヴィスの姿を発見した。
「トラヴィスさ……」
 声を掛けようとしたオーレリアだったが途中で口を噤むと、さっと建物の柱の陰に隠れる。

 そのまま声を掛けても良かったのかもしれないができなかった。何故ならトラヴィスの隣には自分と同い年くらいの令嬢が柔和な微笑みを浮かべて立っていたから。


 その光景を目の当たりにした瞬間、オーレリアは胸がざわつくのを感じた。自分ではない他の女の子がトラヴィスの隣に立っているのを初めて目撃したからだろうか。

 神経を逆撫でするようなざわつきに不快感を露わにする。が、どうしてそう感じるのかよく分からない。

(……自分の感情を分析する前にトラヴィス様を確認しなくちゃ!)
 気を取り直すとオーレリアはすぐにトラヴィスの左手の小指を凝視する。すると、そこには以前までなかった赤い糸が結ばれていた。

「運命の相手が遂に現れたんだわ! ……トラヴィス様の相手は誰?」

 トラヴィスの赤い糸へ意識を向けていると、彼の隣に立つ令嬢の甲高い笑い声が聞こえてくる。オーレリアは視線を移動させてその令嬢の左手の小指を確認する。と、そこにも運命の赤い糸がついていた。そしてその赤い糸が伸びる先には――トラヴィスがいる。