イメルダはパーシヴァルの存在に気づくと、足を止めて頬を引き攣らせる。

「ど、どうしてあなたがここに?」
「それはこっちの台詞だけど? 俺がここにいたら都合でも悪いのか?」

 渋面を作るパーシヴァルは我先にとイメルダへ先制攻撃を仕掛ける。
 するとイメルダは頭を振って「そうじゃないわ」と答えた。ばつの悪い顔をして躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「もうここには二度と来ないと思っていたんだもの。だって殿下は……」
 そこまで言って、イメルダは気まずくなって口を噤んだ。

 パーシヴァルは口を引き結ぶと顔を背ける。互いに視線を地面に落としていると、イメルダが躊躇いがちに沈黙を破った。


「……殿下はあの時のこと、まだ気にしてる?」
「……あの時のことって?」
「ほら、十歳の時のことよ。部屋で鳥図鑑を二人で見ていて、虹色の羽が美しい彩鳥を一度でいいから見てみたいと私が言い出したあの日。殿下と私は宮殿を抜け出してこの森で彩鳥がいないか探してて……その最中に野犬に襲われた」

 イメルダは一旦言葉を区切ると顔を伏せる。それから再び顔を上げると悲痛な声で言った。

「私、怖かった。殿下が野犬に噛まれるんじゃないかって。噛まれたせいで病気になって死んでしまうかもしれないって。そう思ったら目の前が真っ赤になって……気づいたら野犬をぶん殴って倒してた。だけどそれ以来、殿下に避けられるようになって気まずくて……。怖がらせてしまったならごめんなさい。仲が良かった令嬢が実はゴリラ女だったなんて、幻滅したよね」

 イメルダはこれ以上は耐えられないというように、くるりと背中を向けてしまう。そのまま勢いに乗って走り出そうとするとパーシヴァルに腕を掴まれた。