「よそ見をしていて肩がぶつかってしまった。すま……なんだ、おまえか。謝って損したじゃないか」
「ちょっと! 損て何よ、損て!! レディに対して失礼じゃないの?」
「レディ? おまえがか?」

 胡乱げな表情を浮かべて令嬢の頭のてっぺんから足のつま先までを観察するパーシヴァル。
 その行動に令嬢はムッとすると腕を組んで目を眇めた。

「皇子だからって威張り散らして。二人のお兄さんは紳士的なのに恥ずかしくないわけ?」
「威張ってなんかない。おまえが突っかかってくるんだろ?」
「はあ? 何よそれ!? どうせまた幸せを呼ぶとかいう彩鳥を探してよそ見してたんでしょ!? そんなの見つかるわけないじゃないの!」
「何だって?」


 オーレリアが二人の喧嘩に狼狽していると「始まった」と言いながらトラヴィスが隣に現れる。

「トラヴィス様、あのご令嬢はどなたなんですか? あと、二人の喧嘩を止めなくていいのですか?」

 というのも、パーシヴァルの側近も、周りを行き交う人たちも誰一人として二人の喧嘩を止めようとしない。
 一触即発して殴り合いの喧嘩に発展……なんてことはないだろうが、見ていてはらはらしてしまう。

 オーレリアが慌てふためく一方で鷹揚に構えるトラヴィスは腰に手を当てながら答えた。


「あの子はイメルダ・ベルガ。ベルガ公爵のところの令嬢だ。パーシヴァルとは見ての通りの間柄かな」

 詳しい説明を聞けば二人は幼馴染みであり、犬猿の仲なのだという。昔は仲が良かったはずなのに周りが気づいた時には、二人とも顔を合わせればいがみ合う関係になっていたらしい。