「パーシヴァル様を待っている間に、トラヴィス様の運命の相手を確認しましょうか?」

 オーレリアが何となく提案するとトラヴィスは面映ゆい表情を浮かべて側頭部に手を当てる。

「私に運命の相手がいるのだとしても、まだ結婚は無理かなあ」
「念のためですよ」
「だって、私が心に決めているのは……だけだから……」

 聞き取れないほど小さな声でトラヴィスが呟いたのでオーレリアの耳にはそれが届いていない。

「では確認させていただきます」
 オーレリアはそう言いながら親指と人差し指でわっかを作ってトラヴィスの左手の小指を確認する。
「ん……?」

 トラヴィスの小指に赤い糸はついていなかった。


 困惑した表情を浮かべているとトラヴィスは赤い糸が小指にないことを察したようだ。目を眇めて「私の結婚相手は帝国かもしれないな」と冗談を飛ばして場を和ませてくれる。


(トラヴィス様は気さくな方だし、将来皇帝となる方。運命の相手がいないなんて絶対におかしいわ)

 ハルディオ帝国の皇帝は一夫多妻制が認められており、世継ぎのために複数人の高貴な女性を後宮へ迎え入れるのが慣わしとなっている。

 その中に一人もトラヴィスと心を通わせられる相手がいないというのは、なんとも悲しい気持ちになる。

(トラヴィス様には運命の相手がいらっしゃらない……本当に?)

 まだ運命の相手が成人していなくて、小指に繋がる赤い糸が見えていないだけじゃないだろうか。
 腑に落ちないオーレリアは首を捻るばかりだった。