「……まあ、《Luna》の連中には狙われるだろうが……お前がその中の誰か一人と契約しさえすれば本当に誰も手出し出来なくなる」
「……結局誰かとは契約しなきゃならないんですね」

 諦めに似た気持ちでため息をついた。

 私が狙われやすいということはさっきの出来事だけでも分かる。
 襲われないためには誰かの専属として、吸血契約しなければならないことも。

 あんな痛くて怖いことしなきゃいけないなんて……。

 横を歩く美しい男をチラリと見て、彼に血を吸われたときのことを思い出す。

 欲情したように熱のこもった目。
 怯える私の肩を掴み、牙を突き立てたヴァンパイア。

 怖かった。

 でも、その後落ち着いた様子の彼は優しくて……。
 繊細なガラス細工を扱うように私に触れていた。

 さっきだって、首筋に息がかかって硬くなった私に気づいて止まってくれたみたいだったし……。

 怖いけど、多分本当は優しい人。

 律さんも《Luna》だったはず。
 ってことは、私が吸血契約する候補の中に彼も入ってるって事だ。

 ……でも自分と契約しろって言わないんだね。
 いきなり吸血してきたし、私の血を飲みたいって契約を迫るのかと思ったけど……。

 律さんは私と契約したいとは思ってないのかな?
 ヴァンパイアはみんな私を狙ってると言っていたけれど、律さんは例外なのかな?

 あれだけ私の血を求めてきたのに、と不思議な気分だった。