門をくぐると見えるのは洋風な建物。
 お城と勘違いしそうになるそこへ行くまでの道には、様々な花が咲き乱れて景色を明るく彩っている。

 陽の光を燦々(さんさん)と受けるこの場所は月虹(げっこう)学園。

 闇に生きる者と言われるヴァンパイアの通う学園だ。


「闇の住人が通う学園が、こんな天使でも降り立ちそうな場所とか……」

 なんてアンバランスな。
 と、最後の言葉は声に出さず私・夏目(なつめ)緋奈(ひな)は足を進めた。


 歩き出すと花の香りが鼻を掠めて、ほんの少しだけ心を穏やかにしてくれる。

 でも、本当にほんの少し。

 花の香りに癒されても、どうしてこんなことにという思いはなくならない。


 本当にっ! どうして私が月虹学園に通わなきゃならないの⁉

「……なあ」

 ここはヴァンパイアと、彼らと契約した人間しか通えないはずでしょ⁉

「なあって」

 まあ、私の目的のためには通える方が助かるって言えばそうなんだけど……。

「なあっ!」

 でも私誰とも契約してないのに、大丈夫なのかな?

「おい! 呼んでるだろ⁉」
「え?」

 突然肩を掴まれて驚く。

 呼ばれてた?
 考えごとしてたから気づかなかったのかな?