見れば、上官であるマクガレンが「よ!」と片手を上げて近づいてくる。
 その背後には、夫人と娘のキャシーの姿もあった。

「マクガレン大隊長も、ご家族で買い物ですか」

「あぁ、先の任務で特別手当が入ったから、『なにか買え!』って言われてよ」

 マクガレンが家族の方をちらりと横目で見ながら、ヒソヒソ声で囁く。

 騎士団では、どんな敵にも臆さず立ち向かう男の中の男。
 鬼の大隊長と恐れられるマクガレンも、愛する妻と娘のおねだりには抗えないようだ。

「ったく、褒美が欲しいのは俺の方だぜ」

 口ではそう悪態を吐きつつも、家族の楽しげな姿を見つめるマクガレンの眼差しは優しく、口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。

「大隊長もお幸せそうでなによりです」

「まぁ、な。んで? お前の方は?」

「うちは結婚指輪を買いに」

「あぁ、そうか。たしか式は来春だったよな。救国の英雄の結婚式だ。大がかりな式にするんだろ? 日取りの良い日はすぐに埋まるから、早めに式場は押さえておいた方がいいぜ。これ、人生の先輩からのアドバイスな」