瀬口さんという男の子

 朝が始まるのは朝の六時だ。その時間になると、起床を知らせるためにクラシックの曲が流れる。
 そうすると制服を着て身支度を整えると私は、自室から外に出た。
「おはようございます、四宮さん」
「瀬口さん。おはようございます」
 もうすでに制服に着替えている彼を見て驚くが、彼らの起床は朝の五時らしく私たちより先に朝ごはんを食べているそうだ。
「では、行きましょうか」
「はい。今日も朝食が楽しみです」
 この学校は基本的に朝はアメリカンブレックファーストと決まっている。大体が、卵料理に肉料理、トーストにジュースにヨーグルトという朝からボリューミーなメニューだ。
 食堂に到着して夕食と同様に席に着くと、瀬口さんが朝食をとりに行き配膳をしてくださる。なぜ、日常でも配膳を生徒がするのかというと試験の予行練習だということだ。だがそれはお嬢様科でも同じで、よく注意されている人を見る。もしかしたら執事科の方も厨房で指導を受けているのかな、なんて思った。


 ***


 食事が終われば、すぐに部屋に戻って授業の支度をする。支度が終わると瀬口さんが荷物を持ってくれてそのまま教室に向かった。
「ごきげんよう、四宮さん」
「ごきげんよう」
 教室に行けば、挨拶が飛び交う。朝食の時も挨拶のタイミングがあるのだけど、その時はテーブルマナーがうまくできるかドキドキして挨拶をしている時間を頭の中でイメージトレーニングをしているらしいのでちゃんとした挨拶は学校に登校時間が初めての挨拶だ。
「愛結お嬢様、どうぞ」
「ありがとう瀬口さん」
 教室では、瀬口さんは私の名前とお嬢様をセットで言う。普通執事が主を苗字で呼ばないし、ここでもそれは同じだということだ。
 この学校の授業は八時半から始まって四コマある。それは普通の学校と同じだ。だが、一般的な私立とは違って例えるなら進学校のようなハイレベルな教師陣がいるためついていくのがやっとという生徒もいるみたいだ。
 お嬢様でも執事でも、教養は大切であり伝統ある櫻乃学園の生徒として厳しく学ばされる。その中の授業でも英語などの外国語教育にも熱心に取り組んでいるので卒業時にはネイティブレベルになっているのが学校の方針だ。

 午前の授業は十二時十五分に終わる。授業が終われば、昼食とお昼休憩だ。この時間は流石にテーブルマナーはなくて、執事が作ったお弁当を食べることになっている。
「瀬口さん、今日は和食なのね! 美味しそうだわ!」
 当然私も瀬口さんが作ったお弁当だ。
「はい。昨日、和食が食べたいと行っていらっしゃったのでそのように作らせていただきました」
「瀬口さんはなんでもできるのね」
「そんなことはありません。まだまだ見習いの身ですので」
 さすがというか、なんというか……謙虚すぎるし。この人、もう執事として完璧では?と思ってしまう。
 この人の欠点というか苦手なことってあるのかしら?
「愛結お嬢様、食べながらで申し訳ないのですが午後からの確認をさせてください」
「はい、大丈夫です。お願いします」
「午後からの()コマは専門学科なので別々の行動となります。午後最初の授業は、愛結お嬢様は、華道になっています。その際、お着物となるのでお着替えをお願いします」
「そうね、準備はしてくださったの?」
「はい。お部屋に置いておきました。着付けは大丈夫でしょうか?」
「それは大丈夫。実家では何度も着ているから」
 着物なら、小さな頃から教わっていたし完璧だ。だけど、華道は自信ないし不安だ……茶道ならできるのに。
「……何か不安なことでもおありでしょうか?」
「え、ううん。着物は大丈夫なのだけど華道はあまり好きではないのよ」
「そうですか……僕から、何かアドバイスをすることはできないのですが、お嬢様なら大丈夫ですよ」
「ふふ、ありがとう。頑張ってみるわ……だって、私がいい成績を取らないと瀬口さんにも影響しちゃうかもしれないものね」
 うん、頑張ろう。
 瀬口さんには迷惑はかけられない!

 その後も、午後の授業の確認をされてお昼の時間は過ぎていった。