食事

 入学式が終わり部屋に戻って話すこともやることもなかったので私たちは自室にて制服を脱いで部屋着に着替えると篭ることにした。
 篭っても何かやることはないのだけど、念のためキリシマに入学式が無事終わったことをメッセージで送った。すると数分後に返信が来て【ご連絡ありがとうございます。安心いたしました。】と丁寧な文が送られてきていかにもキリシマらしいなぁと思った……いつもそばにいてくれた彼がいないのはとても寂しい。
「いつも、私の喉が乾くタイミングで淹れてくれてたっけ……」
 それを思い出しただけで微笑ましいけど、少し喉が本当に乾いてきて飲みにリビングに向かう。確か、紅茶の茶葉は用意されていたのが見えたしキリシマはキッチンでお湯を沸かしていたわよね……私はそれを思い出しながらポットにお水を入れてそれをコンロに置く。
「……困ったわ、これはどうやって使うのかしら……」
 私は唸りながらコンロ回りのスイッチを押そうとすると「四宮様?」と声がした。声がした方を見るとそこには瀬口さんがいてなぜか驚いた顔をしている。
「あ……ごめんなさい。うるさかったかしら」
「いえ。それよりもどうなさったのですか?」
「……喉が渇いたので、紅茶を淹れようと思ってお湯を沸かそうと思ったのだけど沸かし方がわからなくて」
「そういうことなら僕を呼んでください。紅茶なら僕が淹れるので」
 その手があったわね! 気が付かなかったわ……
「さぁ、四宮様はこちらでお座りになってください」
「ありがとう」
 私をソファに座らせると彼はキッチンでお湯を沸かし始めた。お湯になるまでティーポットとティーカップを準備をしていて彼は慣れてるんだなぁと見ていてわかった。
 お湯ができたらティーポットたちにお湯を注ぎ、温める。温かくなったティーポットへ茶葉をスプーンで一杯入れた。
「瀬口さんは、慣れていらっしゃるのね……紅茶淹れたりするの」
「家でしていましたので慣れてはいます」
「そうなのね、すごいわね……私は、そういうことしたことないの。何も知らないなんて恥ずかしいのだけど」
「そんなことありません。四宮さんは、所作や言葉遣いが丁寧で……素敵だと思います」
 そんなこと初めて言われたわ。当たり前だと思っていたし、私が会う人は限られているもの。できて当たり前っていう環境にいたし。
「ありがとう、そんなこと言ってもらったのは初めてよ。そうね、私のも慣れですわ。母に厳しく躾けられたのもあるかもしれないですね」
「そうなんですか。お母様に……素敵なお母様なんでしょうね」
「えぇ、とても。私の目標です……もう亡くなってしまったのですけどね」
「えっ、す、すみません…………お辛いことを思い出させてしまって」
「私が話したのだから気にしないで」
 そんな話をしているうちにティーポットにお湯を注いでいた彼はティーカップに紅茶を注いだ。
「四宮さん、紅茶はストレートがよろしいですか? それとも砂糖をお入れしてもよろしいでしょうか」
「砂糖はいらないわ。そのままで飲みたいの」
「かしこまりました」
 そう言ってトレーに紅茶の入ったティーカップを乗せると、こちらにやってきて近くのテーブルに置いた。
「とてもいい香りね……いただくわ」
 私はティーカップを持ち上げると一口飲む。鼻から茶葉のいい香りが入ってきてその香りに包まれるようだ。それに味も渋みは感じられずとても美味しい。
「瀬口さん、美味しいわ! こんな上手に入れられるなんて素晴らしいわよ」
「光栄です。ありがとうございます」
 それは本当に美味しくて幸せ。言っては悪いのだけど、キリシマより上手かもしれない……


 そうして、時間は過ぎた紅茶を飲み終わった頃。
 もう空はあかね色に染まっていて夕食の時間になっていた。
「あの、瀬口さんはその格好なの?」
「はい、執事科の生徒は部屋着がありません。部屋から外に出る時もしっかりした格好でと言われておりますので」
 私は学校から指定されているルームウェアドレスにネクタイフロントローブを着ているのに対し、瀬口さんは白シャツにズボンを着用しサスペンダーをつけている。
「そうなんだ、大変だね」
「いえ、そんなことはありません」
 瀬口さんと話をしながら歩いて食堂に到着をする。席は決まっていないが、前もってペアの執事が用意するらしくその席へと案内されて椅子へと行くと瀬口さんが椅子を引いてくださった。
「ありがとう」
「いいえ、ではお料理をお持ちします。お待ちください」
 そう静かに瀬口さんは言うと、厨房の方に歩いて行った。


「……ねぇ、ねぇ。こんばんわ」
 私だとは思わず反応しないでいると肩をトントンと触れられる。
「すみません、私を呼んでいるのだとは思わなくて」
「それは全然いいのよ。私、あなたと同じクラスなの。教室で見たわ! 私は斉藤(さいとう)ありるというの! よろしくね」
「斉藤様、ご丁寧にありがとうございます。私は四宮愛結と申します」
「こちらこそご丁寧にどうも……そんな畏まらなくていいのよ。というか、四宮ってあの四宮でしょう? すごいわね」
 すごいのは私ではなくて。代々受け継いできた当主方のおかげなのだけれど……でも、そこでそんなこと言っては斉藤さんを傷つけてしまうわ。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。よかったら仲良くしてちょうだいね!」
 斉藤さんと話していれば、瀬口さんが食事を持ってこちらに向かっているのが見えた。

「お待たせいたしました。本日の夕食でございます」
 夕食は、超一流のシェフが作るフランス料理のフルコースだ。こんなに美味しそうな料理だと、お腹がなってしまいそうだ……そんなふうに思っていれば、食事の号令があり一斉に食べ始める。
 だが、瀬口さんを含めた執事科の生徒は私たちの側から離れずご飯は用意されていない。彼らはいつ食べているのだろうと思ったが、食事中に口を開くなんてはしたないのでこの時間では聞くのはあきらめてご飯に集中することにした。これも、誰かが見ているかもしれないし私は気を引き締めて食べた。

 食事後、瀬口さんと部屋に戻るとお風呂の準備をしてくださってお風呂に入るとパジャマを着て脱衣所から出る。すると彼は「僕も食事に行って参ります」と言って部屋を出ていってしまった。
「もしかして、執事科の生徒の人って私たちが活動終わるまでご飯も食べられないし眠ることはできないと言うこと……? え、過酷すぎじゃない!?」
 ブツブツとひとりごとを言っているとなんだか眠くなってきてメモ用紙に【もう眠ります】と書いて自室に入るとベッドに横になった。すぐに寝る予定じゃなかったが、予想以上に疲れていたみたいですぐに眠ってしまった。